ていねいな暮らしを心がけている 部屋が汚いことを除いては 俺の暮らしはていねいである
ひどく疲れたイベントの翌日は、宅配物の受け取り待ちに充てる チャイムが鳴るまでに風呂トイレシンクを磨き終え、コーヒーを飲み、窓を開けて音楽を聴く、小さな脳味噌でいろいろを考える ものを考える姿勢が 生活をていねいにしてくれると思う
自分の部屋が汚いことについて考える 水回りの汚さをやたらと気にする割に ソファに重なる衣類を無視できる理由は何
同じ悩みを持つ友人が 外出の度にタンスをひっくり返しそのまま家を出ると話していた 俺たちのタンスはいつのまにかソファの上へと移動していた
衣類の話からスーツへと興味が移り 直近で参加した結婚式について考える
サラリーマンを辞めて3年と少し経つ 友人の結婚式のため 久しぶりに陽を浴びるスーツ 当時奮発して買った礼服用消臭剤が残っていた 使用期限の表示が無いことを不安に思いつつ 気持ち多めに使う 空になるまであと何人結婚すれば良いのか
招待状が来るまでパートナーの名前も知らなかったのに 式場でボロボロと泣いてしまった あまり内容を話すのもよろしくないと思うので、違ったベクトルの話をする
学生時代 友人の母にはたいへんお世話になった 卒業から9年ぶりに会えた事が嬉しかった「今でもかわいいウチの子だから」と声を掛けてくれた 受験勉強から逃げるように長居しても嫌な顔ひとつ見せず、手料理まで振る舞ってくれたことを思い出す 「僕もママだと思ってます」と答えた
同級生の結婚式に呼ばれたのは初めてだった これまで周りの人間は皆 口を揃えて「式を見ると自分も結婚式をやりたいと思うようになる」と話していた (この言い回しを使うということは、鬱陶しく思う自分がいたということだ)
そんな単純な、と思っていたが 自分が単純な人間であることを失念していた 式場を出た俺はまんまと結婚式を開く側になりたいと思っていた
各席をパートナーと周る友人は「中学・高校・大学の自分がいて、その全員が嬉しい」と話していた この言葉にやられてしまった
結婚そのものについて考える
結婚を考えた相手と別れた経験がある なかなかうまくいかないものだ
婚期に対する焦りは薄いが しかしずっと胸の中にある この焦りは、将来の夢を持つよう強制されていた時と同じ焦りだ 俺は焦ることが、焦っている自分に気付くことが嫌いで もっというと怖い
「音楽に携わりたい」と答えていた 全てを投げ打って努力する覚悟は無かった 幸い今は音楽に携わっており 夢が叶っているし 叶え続けるべきだと思う 覚悟はあとから着いてきた
「結婚しよう」と言われたが そのために努力する覚悟が足りず一人になった これについては あとから着いてくる形の覚悟では良くない気がしている
一人で考える時間が欲しかった しかし困ったことに 俺は一人で考えることが苦手なのだ
考えることについて考える
俺は一人でものを考えることが下手だが、考えることそのものは好きだ
俺の家族は全員よく喋る 食卓を囲んでしゃべり、テレビを見ながらしゃべり、寝室でも眠る直前までしゃべる
答えの出ていないトピックを投げ、会話をしながら答えを出す作業を繰り返していた 思考デバイスを内でなく外に置いていたことになる 会話の上で互いの思考に付き合っていた
その癖が抜けないおかげで、基本的に俺の話はめちゃくちゃに長い (文章が長いのもそのせいなので、ごめんなさいネ…) 着地点が見つかるまで 滞空時間を稼ぐ言葉をガソリンとして使う
俺の思考に夜通し付き合ってくれるような友人はちょうど10人いる 4歳からの友人だったり ここ2〜3年の付き合いだったり様々だ その半数から「お前の話は長い」と言われたことがある これは一人でいる間の思考が足りていない証拠である
しかし よく考えられるようになったとして 俺の話は短くなるのだろうか 結婚するとして 新郎スピーチは何分になるのだろうか
その頃には 見違えるほど立派になって「お前の話は長い」と言っていた友人を感心させたいし、先日感動した「中学・高校・大学の自分がいて、その全員が嬉しい状態」になっていたら良いな、と思う
もっと考えて生きなきゃいけない
生活がていねいになっていく 部屋を片付けなくては